確定申告の時期。お母さまが入居している「ナーシングホーム」の一年分の領収書を前に、ふと手が止まる——「このナーシングホームの費用は、医療費控除の対象になるの?」
月々まとまった金額を払っているからこそ、少しでも税金が戻るなら申告したい。でも調べてみると「対象になる」と書いてあるサイトも「ならない」と書いてあるサイトもあって、余計に混乱してしまう。そんな経験はありませんか。
結論から言うと、ナーシングホームの費用が医療費控除の対象になるかどうかは「施設の種類」によって大きく変わります。同じ「老人ホーム」でも、全額が対象になるところ、半分だけ対象になるところ、そして原則対象外のところがあるのです。この記事では、その違いと、対象外の施設でも実は控除できる費用について、国税庁の基準にそってやさしく整理します。
⚠ はじめに:税金の最終判断は専門家へ
医療費控除の対象になるかどうかは、施設の種類・受けているサービス・ご家庭の状況によって細かく変わります。この記事は考え方を整理するためのものです。実際の申告にあたっては、施設の担当者や、お住まいの地域を管轄する税務署・税理士に必ずご確認ください。
まず知っておきたいのが、「ナーシングホーム」という言葉には、税制上の決まった区分がないということです。日本では、看護体制を手厚くした民間の施設が「ナーシングホーム」と呼ばれることが多く、その多くは制度上「有料老人ホーム」に分類されます。
医療費控除の対象になるかどうかは、この「呼び名」ではなく、制度上どの施設に分類されるかで判断されます。ですから、まずはお母さまが入居している施設が、次のどれにあたるのかを確認することが出発点になります。
確認したい「施設の種類」
※「ナーシングホーム」には、住宅型有料老人ホームやサ高住の形態も多くあります。この2つは扱いが同じで、家賃などの利用料は対象外・外部の医療系サービスは対象、という考え方になります。
入居時の契約書や、施設が発行する領収書に施設の種類が書かれています。「有料老人ホーム」と書かれていれば、次にご説明するとおり、施設の利用料そのものは原則として医療費控除の対象外です。ただし——ここが大切なのですが——対象外の施設でも、控除できる費用が別にあります。まずは施設ごとの違いから見ていきましょう。
国税庁の基準では、施設の種類によって、施設に払う利用料(施設サービス費)の扱いが次のように分かれます。
民間が運営する有料老人ホームは、制度上「住まい+サービス」という位置づけです。そのため、家賃・管理費・食費といった施設の利用料そのものは、医療費控除の対象になりません。「ナーシングホーム」と呼ばれる施設の多くはここに含まれます。ただし、これで終わりではありません。施設で受けている訪問看護などの医療系サービスの自己負担分や、外部の医療機関の受診代・おむつ代などは、別枠でしっかり控除できます(記事の後半でくわしく解説します)。
特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設・地域密着型を含む)では、施設サービス費(介護費・食費・居住費)として支払った自己負担額の2分の1に相当する金額が医療費控除の対象になります。ただし、理美容代や教養娯楽費などの「日常生活費」や「特別なサービス費」は対象に含まれませんので、請求書の総額をそのまま2分の1にしないよう注意してください。控除対象となる金額は施設が発行する領収書に記載されることになっているので、まずは領収書を確認してみてください。
介護老人保健施設(老健)や介護医療院は、制度上「病院・診療所」に近い性格を持つ施設です。そのため、施設サービス費(介護費・食費・居住費)として支払った自己負担額の全額が医療費控除の対象になります。こちらも控除対象額は領収書に記載されます。なお、以前あった「介護療養型医療施設」は令和6年(2024年)3月31日で廃止され、介護医療院などへ移行しています。
施設の種類ごとの「利用料」の扱い
「うちは有料老人ホームだから対象外か…」とがっかりされたかもしれません。でも、あきらめるのはまだ早いです。施設の利用料が対象外でも、次のような費用は医療費控除の対象になります。これは特養・老健など他の施設に入居している場合も同じです。
施設利用料とは別に控除できる主な費用
ここが見落とされがちで、いちばん「取りこぼし」が起きやすいポイントです。介護保険の在宅サービス(居宅サービス)は、医療費控除の扱いが3つに分かれています。
在宅サービスの3つの分類
ポイントは真ん中のグループです。訪問看護などの医療系サービスを利用していれば、あわせて使っているデイサービスや訪問介護(福祉系)の自己負担分まで、医療費控除の対象に取り込める場合があります。「ナーシングホーム(住宅型+訪問看護)」に入居している方はこの状態にあたることが多く、知らないと本来受けられる控除を取りこぼしてしまいます。どこまで対象になるかは組み合わせで変わるので、対象額は施設や税務署・税理士に確認すると安心です。
意外と見落とされがちなのがおむつ代です。おむつ代は、そのままでは医療費控除の対象になりませんが、おおむね6か月以上寝たきりの状態で、治療のためにおむつが必要と医師が認め、「おむつ使用証明書」を発行してもらえば対象になります。長期の介護では負担の大きい費用なので、あてはまりそうな場合は主治医に相談してみましょう。
💡 2年目以降は手続きが簡単になることも
「毎年、医師に証明書を書いてもらうの?」と負担に感じるかもしれませんが、2年目以降は、要介護認定を受けている一定の方について、市区町村が交付する「おむつ使用確認書」や、主治医意見書の写しを証明書の代わりにできる取扱いがあります。長く入居している場合は、お住まいの市区町村の窓口に確認してみてください。
申告のポイント
⚠ ここが大切:控除額の計算式
(1年間に支払った医療費の合計 − 保険金などで補てんされる金額)− 10万円(総所得金額等が200万円未満の方は総所得金額等の5%)= 医療費控除の額
「保険金などで補てんされる金額」には、高額介護サービス費や高額療養費の払い戻し、生命保険の入院給付金などが含まれます。施設に入居していると高額介護サービス費の支給を受けている方が多く、これを差し引かないと実際とかけ離れた金額になってしまいます。なお、医療費控除の額には200万円という上限があります。
「去年の分を申告し忘れていた…」という場合もあきらめないでください。還付を受けるための申告(還付申告)は、その年の翌年1月1日から5年間さかのぼって提出できます。過去に申告していなかった年があれば、まとめて見直してみる価値があります。
「うちの施設はどこまでが対象?」と迷ったら、まずは施設の担当者に「医療費控除の対象額が領収書に載っていますか」と聞いてみるのが近道です。そのうえで、判断に迷う部分は税務署に確認すれば安心です。
この記事のまとめ
※本記事は2026年8月時点の情報をもとに作成しています。制度や取扱いは今後変わる可能性があります。医療費控除の対象可否はご利用の施設・サービスやご家庭の状況によって異なり、最終的な判断は個別の事情によります。具体的な手続きや控除額については、ご利用の施設・お住まいの地域を管轄する税務署・税理士にご確認ください。(参考:国税庁タックスアンサー No.1120/No.1122/No.1125/No.1127 ほか)
※掲載情報は執筆時点のものです。制度・数値は改定される場合がありますので、最新情報は各機関の公式サイトをご確認ください。