「エアコンつけてね」と電話するたびに返ってくるのは、「大丈夫、風が通るから」「電気代がもったいない」という言葉。電話を切ったあと、なんとも言えないモヤモヤが胸に残る——そんな経験、ありませんか?
実はこの悩み、あなただけではありません。高齢の親を持つ多くの家族が、毎年夏になると同じ壁にぶつかっています。
そして、この問題は命に関わります。総務省消防庁のデータによると、2025年の夏(5〜9月)に熱中症で救急搬送された人は全国で約10万人(過去最多)。そのうち約6割が65歳以上の高齢者で、発生場所は「住居」が最多でした。2025年夏の東京都23区のデータでは、屋内での熱中症死亡者のうち約85%がエアコンを使っていなかった(未設置を含む)ことがわかっています。
この記事では、高齢者が熱中症になりやすい理由から、エアコンを嫌がる親への具体的な対策、いざというときに使える制度まで、幅広くお伝えします。「今年こそ、親を守りたい」と思っている方に読んでいただきたい内容です。
「うちの親はまだ元気だし」と思っていても、体の中では確実に変化が起きています。高齢者が熱中症にかかりやすいのは、主に次のような理由からです。
高齢者の体に起きている3つの変化
つまり、高齢者の「暑くない」は体の感覚がそう感じているだけで、実際には熱中症の危険が迫っているということ。厚生労働省の人口動態統計によると、熱中症で亡くなった方の約8割は65歳以上です(2023年は83%)。しかもその多くが自宅の中で起きています。
⚠ ここが大切
利尿薬やSGLT2阻害薬など、脱水を促しやすい薬を服用している方は、さらにリスクが高まります。持病のある親御さんの場合は、夏の水分量や薬の調整について、かかりつけ医に相談しておくと安心です。
前のセクションでも触れたとおり、加齢で温度センサーが鈍くなり、室温が上がっていても「暑くない」と本当に感じています。嘘をついているわけではなく、体が暑さに気づけないのです。
年金暮らしの親御さんにとって、電気代は切実な問題です。「もったいない」という気持ちの裏には、限られた収入への不安があります。実際には、6畳用エアコンを28℃設定で1日つけっぱなしにしても、電気代は月1万円前後(機種や地域で変動します)。一方、熱中症で入院すれば数万円〜数十万円の医療費がかかります。
直接風が当たると体が冷えすぎて不快、という方は多いです。関節痛がある方は特に「冷房は体によくない」と強く思い込んでいるケースも。風向きの調整や間接的に冷やす工夫が必要です。
今の高齢者が若い頃は、一般家庭にエアコンが普及していませんでした(家庭のエアコン普及率が50%を超えたのは1980年代半ば)。「窓を開ければ涼しい」「うちわと麦茶で過ごすもの」という感覚がしみ込んでいて、簡単には変わりません。しかし、近年の夏は最高気温40℃以上の日を「酷暑日」と気象庁が正式に定めたほど、昔とはまったく別物の暑さです。
意外と多いのが、リモコンの操作がわからなくてエアコンを使えないケース。冷房にしたいのに暖房になっていた、という事故も実際に起きています。認知症が進んでいる方の場合は特に注意が必要です。
何年も染みついた習慣や価値観を、言葉だけで変えるのは至難の業です。大切なのは、「説得」から「環境づくり」に発想を切り替えること。親御さんが意識しなくても安全に過ごせる仕組みを整えていきましょう。
体感に頼らず、数字で室内の状況がわかるようにします。大きな文字のデジタル温湿度計を、よくいる場所の壁やテーブルに設置しましょう。「28℃を超えたらエアコンをつける」とルール化するだけで、感覚の問題を回避できます。環境省も、室温28℃以下・湿度70%未満を目安にしています。
オンオフを繰り返すより、28℃の自動運転でつけっぱなしにするほうが室温が安定し、節電効果も期待できます。風向きを上や壁に向けて直接体に当たらないように設定すれば、冷えが苦手な方の抵抗感も減らせます。
使わないボタンにマスキングテープを貼って、「冷房」と「電源」だけが見えるようにする方法があります。設定温度も28℃にあわせておき、変えなくて済む状態にしましょう。最近のエアコンには、スマートフォンで遠隔操作できる機種もあります。離れて暮らしている方は、遠隔でオンにできる環境を整えておくと安心です。
のどの渇きを感じにくい高齢者には、「のどが渇いたら飲む」では間に合いません。起床時・毎食時・10時・15時・就寝前の計7回、コップ1杯(約200mL)を飲む習慣をつくるのが理想です。経口補水液やゼリー飲料を手元に常備しておくのも効果的。飲み込みが心配な方にはとろみをつけた水分やゼリータイプがおすすめです。
⚠ 持病がある方は注意
心臓病や腎臓病がある方は、水分・塩分の摂りすぎが体に負担をかける場合があります。経口補水液やスポーツドリンクを常備する前に、かかりつけ医や薬剤師に「夏の水分の摂り方」を確認しておきましょう。
子どもの言うことは聞かなくても、かかりつけ医・ケアマネジャー・ヘルパーさん・お孫さんの言葉なら受け入れてくれるケースがあります。主治医に「エアコンをつけっぱなしにしてください」と書いたメモを処方してもらい、冷蔵庫に貼っておくという方法も有効です。伝え方は、「エアコンをつけないとダメ」ではなく「いつまでも元気でいてほしいから、エアコンをつけてほしい」というポジティブな言い方がポイントです。
どんなに対策をしていても、万が一のことはあります。緊急時の判断と、頼れる制度を知っておきましょう。
熱中症のサイン
「なんだかいつもと様子が違う」「口の中が乾いている」「尿の色がいつもより濃い」といった小さなサインも見逃さないようにしましょう。高齢者は症状がはっきり出る前に重症化していることがあります。
2024年から、「熱中症特別警戒アラート」が発表された際に自治体が開放する冷房施設「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」の運用が始まっています。2026年5月時点で、全国1,206以上の市区町村が施設を指定済みです。公民館や図書館など、誰でも無料で利用できます。自宅にエアコンがない・使えない場合の「避難先」として、お住まいの自治体のホームページで場所を確認しておくと安心です。
離れて暮らしていて心配な場合、介護サービスの利用も検討してみてください。たとえば、訪問介護サービスの回数を夏場だけ増やして、日中に水分補給の見守りやエアコンの確認をしてもらう方法があります。猛暑が続く時期だけショートステイを利用し、空調管理された施設で過ごしてもらうのも確実な対策のひとつです。まずはケアマネジャーか、お住まいの地域包括支援センターに相談してみましょう。
また、自治体によってはエアコン購入の補助金制度があるところもあります。「エアコンが古くて効きが悪い」「そもそもエアコンがない」という場合は、お住まいの自治体の窓口に確認してみてください。
この記事のまとめ
この記事を読んで「うちもやらなきゃ」と思ったら、まずはひとつ、今日できることから始めてみてください。温湿度計を買うだけでも、経口補水液を送るだけでも、それは立派な第一歩です。
※本記事は2026年8月時点の情報をもとに作成しています。統計データは総務省消防庁・厚生労働省・環境省の公表資料に基づいています。制度や支援内容は自治体により異なり、今後変わる可能性もあります。具体的な手続きやご家庭の状況については、お住まいの自治体の窓口やかかりつけ医、ケアマネジャーにご相談ください。
※掲載情報は執筆時点のものです。制度・数値は改定される場合がありますので、最新情報は各機関の公式サイトをご確認ください。