ある朝、隣の部屋がもぬけの殻だった。
玄関の鍵は開いたまま。靴はない。財布は置きっぱなし。スマホも枕元に残っている。連絡の取りようがない。認知症の親と暮らしている家族にとって、これは「まさか」ではなく、いつか来るかもしれない朝です。
2025年、認知症やその疑いで行方不明になったと警察に届け出があった人は、全国で1万7,345人。1日に換算すると約47人が、どこかで姿を消しています。
ただし、この数字には救いもあります。警察庁の統計では、届け出から3日以内に94.8%の人が生きた状態で見つかっています。裏を返せば、最初の3日間にどれだけ速く動けるかが、文字どおり命を分けるということです。
この記事では、「もし明日、うちの親がいなくなったら」という視点で、知っておくべきデータ・すぐやるべきこと・今日からできる備えをまとめました。
まず、数字を見ておきましょう。2025年中に所在確認・死亡確認がなされた認知症行方不明者は16,729人。そのうち、届け出の受理から3日以内に生存した状態で見つかった人は15,856人で、全体の94.8%にのぼります。
もう少し詳しく見ると、最も多いのは届け出当日の発見で、11,369人が生きたまま見つかっています。つまり、届け出をしたその日のうちに約68%が保護されているのです。
一方、4日以降になると状況は大きく変わります。4日目以降に発見された人のうち、生存が確認されたのは53.7%。ほぼ半数が、すでに亡くなっていました。さらに15日を過ぎると、死亡確認の割合の方が高くなります。
⚠ つまり「3日」が分かれ目
東京都健康長寿医療センターの研究でも、行方不明から翌日までは生存発見が多いものの、3日目以降は生存の可能性が急激に低下することが示されています。「もう少し待てば帰ってくるかも」という判断が、取り返しのつかない時間を生んでしまうことがあります。
2024年の警察庁統計では、認知症の行方不明者で死亡が確認された491人のうち、77.8%にあたる382人が、行方不明になった場所から5km圏内で見つかっています。5km超から50km圏内は93人、50kmを超えていたのは15人でした。
つまり、遠くに行ったから見つからないのではなく、近くにいるのに見つけられないまま時間が過ぎてしまうのです。
死亡が確認された場所で最も多かったのは河川・河川敷(115人)で、次いで用水路・側溝(79人)、山林(71人)。この3つで全体の54%を占めます。水辺への転落や、足を踏み入れた山林からの脱出困難が、直接の原因になっていると考えられます。
⚠ 家の周り5km圏内にある水辺・山林に心当たりはありませんか
もし自宅の近くに川や水路、山林があるなら、行方不明になったときに真っ先に確認すべき場所です。「近くにいるはず」という直感は、データが裏づけています。
「まだ近くにいるかもしれない」「大ごとにしたくない」。その気持ちはよく分かります。でも、先ほどのデータが示すとおり、時間が経つほど生存率は下がります。迷ったら、すぐ110番です。
2025年の統計で、発見のきっかけとして最も多かったのは「民間通報」(47.0%)でした。半数近くが、地域の人や協力機関の目によって見つかっているのです。家族が一人で歩き回るより、早く多くの目を動かすことが、生きて見つかる確率を上げます。
この記事のまとめ
「うちの親に限って」と思いたい気持ちはあります。でも、年間1万7千人のご家族も、きっとそう思っていたはずです。備えは、不安を認めることではなく、親を守るためにできる最初の一歩です。
※掲載情報は執筆時点のものです。制度・数値は改定される場合がありますので、最新情報は各機関の公式サイトをご確認ください。
※本記事は2026年7月時点の情報をもとに、警察庁「令和7年における行方不明者届受理等の状況」(令和8年6月25日公表)および東京都健康長寿医療センター研究所の研究成果を確認して作成しています。統計の数値は届け出があった人の数であり、届け出がなされていない事例は含まれていません。GPS機器等の助成制度や見守りネットワークの仕組みは自治体によって異なります。具体的な制度についてはお住まいの市区町村の高齢者福祉担当課、地域包括支援センター、または担当のケアマネジャーにご確認ください。